私たちは、Raman分光法と誘電緩和分光法(DRS)を組み合わせ、高速イオン伝導を示す新規電解液に適用することで、そのイオン伝導機構の解明を目指しています。DRSは、溶液中の溶媒分子やイオン対の構造や局所的な回転ダイナミクスを評価するのに有用な手法です。しかし、誘電緩和スペクトルにおける溶存化学種に対応する緩和の帰属は困難であり、溶液中の構造とダイナミクスの理解には制約があります。
　誘電緩和スペクトルにおける緩和の帰属を明確にするため、Raman分光と誘電緩和分光の二次元相関解析を実施しました。具体的には、与えられた周波数における𝜀′′の濃度依存性と、与えられた波数におけるRaman強度の濃度依存性に関してPearsonの相関係数を求めるとともに、Noda-Ozakiの二次元相関同期・非同期解析を行いました。 Pearsonの相関係数は、線形最小二乗法（回帰分析）によるGoodness of fitの指標であり、-1から１の範囲を取ります。線形関係が強いほど、その絶対値が大きくなります。一方、Noda-Ozakiの二次元相関解析における同期相関はPearsonの相関と類似していますが、非同期相関は強度の変化の仕方に差がある場合に強くなります。

二次元相関解析は、他の分光スペクトルにも適用可能であり、分光スペクトルの動的変化をより明確に捉えることができる。